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受験者数日本一の千葉工業大
もっとすごい114%が示す実力

受験者数日本一の千葉工業大
もっとすごい114%が示す実力

大学を選ぶ尺度は人それぞれ、様々な観点があります。偏差値というくびきを外した時に見えてくる大学の姿を知ることは、さらに重要になっていくでしょう。定員割れの大学が続出するなか、受験者数で日本一に躍り出た千葉工業大学の「114%」というある数字は、大学の満足度につながる「すごい数字」なのです。

18歳人口の大学進学率を調べてみると、平成元年は4年制大学・短大を合わせて36.3%、令和元(平成31)年度は58.1%でした。そして令和7年度の最新情報では大学・短大が62.3%で、これらに高等専門学校や専門学校を含めると87.3%が何らかの高等教育への進学を行っていることになります。
しかし、大学進学率は増えていても、平成元年度の18歳人口は約205万人から、令和元年度の約116.7万人への減少を考えると、進学率の上昇は単に少子化の影響と言っても過言ではありません。

私立大学では6割が定員割れをしている

大学には入学定員というものがあります。例えば、大学のある学部で定員を100人と設定しているのに、その定員よりも入学者が少ない場合、単純に入学金や授業料など、大学の収入が少なくなります。一般的な学費なら、学生1人が入学し、4年間在籍して卒業するまでに約500万円の収入が見込まれるため、入学者が10人少なければ4年間で5000万円の収入を逃したことになります。
こちらのグラフをご覧ください。

日本私立学校振興・共済事業団「入学定員充足率の分布推移」の統計データより筆者作図
https://www.shigaku.go.jp/files/shigandoukouR6.pdf

このグラフは、平成元年度に調査した358校から、令和6年度の598校まで、各私立大学が設定した定員に対し、100%を充足したか否かと、70%を達成したか否かを示したものです。令和6年度については、調査を行ったこの598校のうち、およそ6割の私立大学が定員を満たしていません。文部科学省は現在、「定員の7割を下回る学部がある場合は新たな学部設置を認可しない」という方針を示しています。文科省の方針となる定員を達成できなかった113校は、今後は入学希望者を全員合格させるための、あらゆる努力をすることになります。その努力は、教育内容の充実とか就職サポートなどが思いつきますが、そもそも18歳人口が少ないのですから、ひたすら志願者を集めて、可能な限り多くの入学者を確保することになります。つまり、総合型・学校推薦による選抜であれば、形式的な書類選考と面接を行うだけとなり、一般選抜については受験者全員を合格させるのではないかという懸念さえあります。
もはや私立大学は、定員を満たすためであれば、入学の意志と学費の支払い能力が選考基準ではないかというくらい、悲惨な状況ともいえます。

定員割れの一方で、私立大学の志願倍率7倍超えの理由とは

ところで、文部科学省が公表したデータですが、この少子化の時代に志願倍率が7.5倍という不思議な数字がありました。

文部科学省「令和6年度国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要」より転載
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2020/1414952_00007.htm

この表は、令和6年度の大学入学者に関し、募集人員・受験者・合格者などを表したものです。よく見ると、私立大学の志願倍率が、なぜか7.5倍とあります。単純に計算すれば、定員に対し、その7倍以上の志願者がいたということになります。ただ、これは総合型選抜、学校推薦型選抜を含めたものなので、学力試験を伴う一般選抜のみを抽出したデータを見てみましょう。

一般選抜、つまり学力試験を課す入試を経た私立大学の志願倍率はなんと11.9倍となっています。
この数字を見てしまうと、大学入試が激化しているように見えますが、よく見てみると、私立大学の募集人員が約26万人、願書を提出したのが約305万人、実際の受験者は約288万人、合格者は約108万人です。ここまで見ると、定員26万人に対して300万人が争っていて、設定した定員の4倍の合格者を出しています。しかし、実際に入学したのは約19万人でした。
単純に、募集人員(定員)の数と、実際に入学した者の数を単純計算すると、0.73倍でした。一般選抜においては12倍近い争いがあるように見えますが、現実には私立大学では必ず定員割れをすることが予定されているということになります。
いうまでもなく、歴史のある名門校や、偏差値が高いとされる大学に人気が偏ることになります。人気の高い大学は競争率が上がり、そうでないところは簡単に入学できるというのは今に始まったことではありませんが、18歳人口の極端な減少とともに、受験戦争は受験生側の戦争ではなく、学校を運営する側の入学者獲得戦争となってしまったといえます。

共通テストの受験者は10校でも同時受験ができる

18歳人口が少ないのに、なぜか志願倍率が異様に高くなるというこの不思議な現象は、実は本命・滑り止めなど、ひとりの受験生が複数の大学・学部を併願する者のために起こります。
かつては、大学を10校受験しようとすれば、それらの大学に対し、各3万円程度の受験料を払い、かつ1日がかりの試験を10回受ける必要がありましたが、近年は共通テストを受験した者であれば、出願するだけで共通テストの成績によって合否が決まる「共通テスト利用型入試」等を採り入れる私立大学が増えてきました。
本来、独立行政法人大学入試センターが行う大学入学共通テストは、「共通一次」や「センター試験」という名称で、受験生はその成績を使って、国公立大学への二次試験受験資格を得るという性格のものでした。近年ではこの共通テストの成績がそのまま私立大学の一般選抜入試の受験とみなせるのです。つまり、共通テストを受験し、その成績を添付して願書を出せば、あとはその共通テストの点数と書類選考のみで合否結果を得ることができます。
これは学生にとってはたいへん有利な制度といえます。たった1回の共通テストの受験だけで、あとは出願だけで20校受験したことになり、そのうち合格した複数の大学から、好きな大学を選ぶだけです。
一方で、大学側は多数の受験者を確保することができるというメリットはあるものの、合格者も多数となり、しかもそのうち実際に入学手続をするのはわずかなので、繰り上げ合格などの待機者を一定数確保しておかなければならず、それでも足りなければ定員割れとなってしまいます。

千葉工業大学の受験生獲得戦略とは

例えば千葉工業大学(千葉県習志野市)は、5学部17学科を有します。様々な入試形態がありますが、共通テスト利用で一般選抜試験を受ける場合、受験料は免除(無料)となります。しかも、同時に17学科全てを受験することが可能で、実際に試験を受けることはありません。そういった特殊な受験方法を採用しているせいもあり、令和6年度の入試では計約14万3千人が受験し、2372人が入学しました。そして令和7年度は約16万2千人が受験し、2265人が入学しました。この16万2千人は、受験者数日本一となったことが各種メディアで話題になりました。

この表からわかるように、同大学の定員充足率は全ての学部・学科において、定員を上回る入学者数を確保していて、1990人の定員に対して入学者は2265人です。計算すると令和7年度は114%となっています。「偏差値でいえば40前後」というイメージを持つ私立大学で、定員を上回るということは、単純に受験者が多いだけという訳でもなさそうです。

研究機関としての魅力も期待できる大学運営

千葉工業大学は、受験生獲得の戦略だけで入学者を確保しているというわけではありません。やはり、学生のやる気を引き出す魅力のある研究や業績を間近で見られるという点も大きいと思います。
例えば、近年では宇宙やロボット工学の分野で実績のある教授陣の名が挙げられ、大学の看板にもなっています。同大学での非常勤講師経験がある建築家の渡辺治氏(一級建築士/工学博士)によれば、この大学は教員を集める際に、とにかく本気で優れた実績を持つ者を集めようとする姿勢があり、例えば環境デザイン理論で優れた業績を持つ故・西出和彦氏が助教授を務めていたことも大きいといいます。
入試偏差値の低い大学ですので、学生は高校までは平均以下の成績という学生が多く、一見すると無気力な学生に見えてしまうこともありますが、知識が無いからこそ自由な発想で研究に打ち込めるとか、最先端とされる研究を見せると学びに目覚め、一級建築士の資格を取ったり、大学院進学を決めたり、普通に大手ゼネコンやハウスメーカーに就職する卒業生も多かったそうです。

学費ナビによると同大学の4年間の学費総額は621万円です。学費は少し高く見えますが、東京から電車で30分ほどの立地なのに、学生向けのアパート・マンションは家賃相場が月4~5万円から見つけることができるから、都心よりは生活費が安く済むなど、入試方法による学生集めだけではない事情が見えてきます。

知名度・偏差値で劣っても闘える、大学の新たな取り組み

受験者数の多い私立大学といえば、近年では近畿大学や東洋大学といった、知名度も入試偏差値も高いところが目立っていましたが、学生の満足度が高い郊外型の大学が総合的にお得なのかもしれません。少子化の影響で大学が選びたい放題なのであれば、偏差値に振り回されるのではなく、教授陣の研究内容、4年間を過ごす地域の選別、とにかく学費が安いなど、様々な物差しで進学先を選べるというメリットをたっぷりと享受すべきですね。

松本肇(まつもと・はじめ)
教育ジャーナリスト

専門分野は大学改革支援・学位授与機構を活用した学位取得方法、通信制大学・通信制高校・高卒認定試験・専門学校など。著書「短大・専門学校卒ナースが簡単に看護大学卒」等。
いわゆる「学歴フィルター」と呼ばれる価値観よりも、大学で得られる「アカデミックスキル」という数値化しにくい教育の有無に関心がある。
日本テレビ「DayDay.」、フジテレビ「めざまし8」、「ホンマでっか!?TV」、ABEMA「アベマプライム」などでゲストコメンテーターを務める。